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広島高等裁判所 昭和22年(上)63号 判決

上告人 被告人 横山頼美

辯護人 今西貞夫

檢察官 木下猛雄關與

主文

原判決を破毀する。

本件を廣島地方裁判所に差戻す。

理由

辯護人今西貞夫の上告趣旨は別紙上告趣意書と題する書面記載の通りである。

仍て先づ其の第一點につき按ずるに刑事訴訟法第三百五十三條に依れば、開廷後被告人の心神喪失に因り公判手續を停止し、又は其の他如何なる理由に基くを問わず苟も引續き十五日以上開廷しなかつた場合には當然公判手續を更新しなければならぬ。そして假りに第一回公判期日において事件の實體審理をなし、その後十五日以内に第二回公判期日が開始せられても、その公判期日が被告人の不出頭その他の事由で事件の實體審理に入らず單に次回(第三回)期日の指定がなされただけで延期されたような場合には右第二回公判期日の開かれたことは右法條にいわゆる開廷があつたものとは言い得ないものと解するのが相當であつて、右の第三回公判期日が第一回公判期日後十五日以上經過後であればその第三回公判期日においては當然公判手續を更新しなければならぬ。だから若し右設例の第三回公判期日において公判手續を更新しなかつた場合には刑事訴訟法第四百十條第十六號に該當し常に上告の理由あるものである。飜つて本件記録を調査すると、昭和二十二年六月二十七日開廷の第四回公判期日において、前回開廷後引續き十五日以上開廷せず且つ裁判所の部員に更迭があつたので審理を更新し、同日は審理後檢事及び辯護人から辯論準備のため續行を求め裁判長は續行期日を同年七月九日午前十時と指定したが、七月九日の第五回公判期日には被告人は出頭せず檢事から期日延期の申請があり、裁判長は事件の實體審理を爲さず次回期日を同年七月十六日午前九時と指定して閉廷し次で右七月十六日の第六回公判期日には裁判長は前回に引續いて審理すると告げたのみで直ちに檢事の論告及び辯護人の辯論等があつて裁判長は辯論を終結し判決宣告期日を同月三十日午前十時を指定し右期日に判決の宣告をしたことは公判調書の記載によつて明かであるから右第六回公判期日は前記説示によつて明かな如く刑事訴訟法第三百五十三條にいわゆる引續き十五日以上開廷しなかつた場合に該當し原審は當然その公判手續を更新しなければならないに拘らず原審第六回公判調書によれば同期日においては所論の如く公判手續を更新した形跡がないから原審公判手續は前示の法條に違背し同法第四百十條第十六號に依り本論旨は理由あり、そして右の違法は本件事實の確定に影響を及ぼすこと明白であるから、原判決はこの點において破毀を免れず。仍て爾餘の上告論旨に對する判斷はこれを省略し刑事訴訟法第四百四十八條の二第一項に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 三瀬忠俊 判事 柴原八一 判事 和田邦康)

辯護人今西貞夫上告趣意書

第一點原審公判手續には刑事訴訟法第三百五十三條所定の更新を爲さない違法がある原審公判調書を見ると昭和二十二年六月二十七日開廷の第四回公判に於て、裁判所の構成に更迭があり且つ十五日以上引續き開廷しないので審理を更新されたが同日は審理後檢事及辯護人から辯論準備の爲め續行を求め裁判長は是を許容して續行期日を同年七月九日午前十時と指定した(第四回公判調書)處が七月九日の期日には被告人は出頭せず檢事から「被告人は目下他の事件に付強制處分による勾留中で其の結果を俟つて論告し度いから期日を一週間延期され度いと要求し裁判長は此の申出を容れ審理に這入らず次回を七月十六日午前九時と指定し閉廷した(第五回公判調書)まして七月十六日は直ちに檢事の論告及辯護人の辯論等があつて裁判長は辯論を終結して來る七月三十日午前十時に判決を宣告する旨を告げ(第六回公判調書)次いで七月三十日に判決の言渡があつた(第七回公判調書)といふ經過を辿つて居るのである是れに依ると

第四回公判 六月二十七日

第五回公判 七月九日 審理に入らず延期

第六回公判 七月十六日 辯論終結

となり各期日の間は十五日以内であるが七月九日は被告人が不出頭で事件の實體審理に入らず單に訴訟指揮即期日指定があつただけであるから七月十六日の第六回公判期日は引續き十五日以上開廷しなかつた場合に該當する事は洵に明瞭であるに拘らず(昭和十年(れ)第一一六六號及昭和九年(れ)第一四五四號判例参照)審理更新の手續をしなかつたことは第六回公判調書自體で證明されるので原審公判手續は刑事訴訟法第三百五十三條に違背し同法第四百十條第十六號に當り本件事實の確定に影響を及ぼすものであるから原判決は既に此の點に於て破毀を免れないものと確信する(昭和十年(れ)第七三一號、昭和十年七月三十日大審院第四刑事部判決大審院判例集第十四卷刑事八五〇頁参照)(その他の上告論旨は省略する。)

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